食料品売り場

　最近のお気に入りはデパートの食料品売り場。大概は地下一階か地下二階にある。惣菜，生鮮野菜，鮮魚，精肉，酒，ケーキ，味噌，茶，佃煮，アイス，和菓子などなど，本当にいろいろなものを売っている。食品の量売りなんかをしているせいか，食品そのものの匂いに満ち満ちている。

　海産物や干物の前を通ると潮の匂いがする。精肉コーナーの前ではソーセージやハムのちょっと塩気のまじった肉の匂いがする。惣菜コーナーでは煮物や揚げ物の匂いの混ざった，食卓の匂いがする。ベーカリーの前では香ばしい焼き立てのパンの匂いがする。味噌樽に山と盛られた様々な色の味噌，炒りたてのお茶っ葉など，むき出しで陳列されている食品に出会えるのも，ここだけだ。

　これはとても不思議なことだが，これだけ雑多なにおいがワンフロアーに満ち，混ざり合っているのに，不快な臭いにはならない。何故だろう？

　考えられるのは空調。適度な温度に保ち，空気の入れ替えをするために，においがこもらないのかも知れない。市場と違って腐臭がないのも，一因かも知れない。
　それから陳列の順番。いろいろな食品を売っているのだから，「食い合わせ」ならぬ「におい合わせ」がありそうだが，実際は惣菜コーナーと洋菓子コーナーが通路を挟んで向かいにあったりするわけだ。何か秘訣があるのだろうか。

　一方，スーパーはにおいがほとんどない。鮮魚コーナーが生臭くはないのと同時に，果物コーナーでも甘い匂いはしない。小規模な小売店，魚屋さんや八百屋さんには食べ物のにおいがあふれている。でも大規模小売店にはにおいがない。たまにやってる試食コーナーの匂いがするくらい。食べ物を売ってる所で，食べ物の匂いがしないなんて不自然だ。

　そういう意味で言えば，市場は自然だ。空調も自然まかせ，食品はむき出しで積み上げてある。足を止め，果物の品定めをしているのに，におってくるのは「揚げたてコロッケ」だったりする。市場には勢いがある。デパートの地下やスーパーにはない生活臭がする。強烈だ。

　でも私はデパートの地下が一番好きだ。何を買う訳ではない。ただあのワンフロアーをぐるぐると歩くのだ。さまざまな食品のにおいを楽しみながら・・・