なこ編 episode 4
入園式
桜の花が散り始め，庭のチューリップが咲いて，いよいよ待ちに待った入園式です。当日は汗ばむほどの陽気。気持ちも高揚しますわね。
（しょうはおばあちゃんに預けて，園庭でひたすら遊ばせる作戦をとったので，今回はほとんど出番がありません。あしからず。）
なこの手には上履き袋，私の手には「学用品・座布団カバーなどなど」必要な物品一式を入れた大きな紙袋。給食はないから箸入れ袋はいいよね・・・みたいな感じで見当をつけて余分なものは置いてきたはずなのに結構重い。しかも入園式のためスーツにヒール着用。幼稚園までの坂道がふくらはぎに堪えますねぇ。
さて。特設駐車場でＲくんを降りたところで，年少さんらしき女の子発見。早速，子供同士で自己紹介させて「初めてのお友達」になりました。このＭちゃんとなこは園庭で遊びだす。「うわぁ，これで園服が泥だらけ・・・入園式までもたなかったかぁ」とお母さん同士でつぶやきます。ま，年少さんではこんなもんなのかなぁ。
受付で，挨拶と名前を言って，月謝の納入。それから担任の先生に挨拶をして名札と「入園おめでとう」の花をつけてもらう。なこちゃん，かなり気に入ったらしく，何度も何度も確認する。それから上履きに履き替えて教室へ。まず下駄箱になこの名前を探す。おっ，ひまわりシールだ。他の子は違うみたい。Ｍちゃんはちょうちょシール。ということは，これが「なこちゃんの目印」なのね。早速そう教えると，後は早い早い。カバン・帽子掛け，ロッカー，椅子，ぜんぶ自分で探しました。椅子には座布団カバーを・・・のはずが背もたれに掛けるひもが短くて届かない。とりあえず置くだけ。今日持って帰って長さを直さねば。なんてこった。
「お母さん，おしっこー」
トイレから戻ってくると，いよいよ入園式。ホールへ移動。途中ダンボールで作った「おめでとう」のおうちをくぐる。Ｍちゃんとはずーっと手を繋いだままだよ。母子盛り上がって来たところで，保護者席と園児席に分かれる。私は遅めに入ったようで，席がなく，後ろで立って見ることに。なこは既に泣きそう。目がじわーっと赤くなってるのが，父兄の頭の間からよく見える。心配で私が手を振る。すると手を振りかえす。その繰り返し。（始まったら前を向くかな？ いつ保護者席にもどってくるだろう？）
「一同起立」
号令と共に保護者が一斉に立ち上がる。途端になこの「おかーさーん」と完全に泣きの入った声が響く。私は頭を下げながら「いるよー」。小さい声では聞こえないし，大きい声では恥ずかしい。保護者が着席すると，また同じ位置になこの顔が見える。しかも後ろ向きで立ってるよ。先生が話し掛けて座らせてくれる。（どうかこのまま座っていてくれますように）。年少さんのうち既に３人は席にはいない。お母さんのとこへ戻っていったみたい。うちも時間の問題かも。
式次第が進み，いよいよ点呼。年中さんから始まるので，年少にも理解できたようで，名前を呼ばれれば，そこそこみんな「はい」と答える。なこは？と不安な気持ちで見ていると，「はいっ！」って前を向いて手を上げたじゃない。よしよし。
最後に「ちゅーりっぷ」の歌を振りつきで歌う。さすがに「笛吹き（もちろん仮名だよ）幼稚園」だ。泣いてた子も，あちこち向いて子も，みんなそれぞれ勝手な格好ながら，先生の方を見ながら歌ってる。なこは・・・歌ってたらしいけど，Ｍちゃんと座りっぱなしでよく見えなかった。立ってくれれば言うことなかったのに。
式が終わって年中さんは退場。年少さんと保護者は記念撮影。なこが寄ってくるかと思ったら，Ｍちゃんと一緒に座ったまま。写真撮影もそのまま。Ｍちゃんのおかげで，初めて離れて座ることができたのよー。やっぱり「お友達」というのはパワーだ。だから皆さん，公園友達と入園したいのかーって思ったよ。めでたし，めでたし。
その後は教室へ移動。保護者付きなので，教室がむちゃむちゃ狭い。配布物やた自己紹介やらでもう大変。先生が紙芝居を出してくると「これ，なんだか分かるかなぁ？」の問いに，なこが速攻で「ひよこぉー」。いや，あひるだよ。元気な声で発言したのは認めよう。どうにも「あひる」と「ひよこ」の区別がつかないんだよね。先生が読み進めるうちに騒ぎもだんだん静まってくる。
最後に「せんせいさよーなら，みなさんさよーなら」（懐かしいフレーズですねぇ）をして退出。こうして短くも長い入園式は終わったのでした。
初日に持っていくべき物品が分からなかったのは他のお母さん方も同じで「うちはとりあえず全部持ってきたよ」っていう人が結構いたのは笑えた。私も同じことを考えたけど，ま，足りなかったら翌日持たせればいいかって諦めたから。（後に判明するのですが，実は５点ほど持たせるのを忘れていました。でも平気平気。それでも間に合ったみたいだから。）
「お母さん，もってきた小さいカバン（上履き袋）置いてきたけどいいの？」
「幼稚園，楽しかったね。明日もあるのかな？」
・・・とまぁ，ここまではよかったのよね。ここから一日泣きが始まった。
「明日，なこちゃん一人で行くの？ なこちゃんねぇ，お母さんがいないと泣きちゃう気持ちになるはずだよ」って言いながらぐすぐす。
気分を替えようとお風呂に入れたら，またふっと思い出して「明日，バスに乗って幼稚園行きたいけど，涙がでちゃうはず・・・」と泣く。
寝る前に，また「なこちゃん，泣けちゃうよ」って，また泣く。あーぁ，バス乗せるとき泣かれるの嫌だな。でも初日は私が送っていかないと，同じバス乗り場のお母さんと顔見知りになりたいしなぁ。でも，泣かれると困るなぁ。
義母に「最初に泣く子は大丈夫な子だから」って言われたことを思い返す。そうだそうだ。園長先生に「ご心配でしょうが，職員一同，精一杯お世話します。ですからご心配なさらずに，泣いてもいいです，どうぞ私たちに預けてください」ってのも思い出す。そうだそうだ。先輩ママたちの「うちの子は○日間泣きつづけたよ」「乗るときは泣いたけど，園に着いたときには笑って挨拶できたって」ということも思い出す。そうだそうだ。
でも，寝られない。バスに乗せるときに泣くんじゃないか？ 私が朝寝坊するかも。この２つが心配で心配で。結局寝た気がしないまま，バス通園初日を迎えた。
朝７時にすっきり起きたなこちゃん。お父さんとしょうちゃんと朝食をもそもそ３０分もかかって食べて，気が付けば３０分を過ぎてる。やっばーい。「急いで着替えて！」と園服を出して，私は化粧と着替え。ところが園服が嬉しいから，ちゃきちゃきお着替え。めずらしく５分程度で着替えちゃった。最短記録でしょう。帽子を被り，リュックを背負い，直してもらった（しょうの面倒を見ていたばあちゃんが居たのを幸いに，座布団カバーも直してもらう。らっきー。）座布団をもたせて，さぁ準備ＯＫ。なこちゃんはそわそわ。もう出掛けたいって意欲満々。お迎えバスの時間より２０分も早いけど出掛けることにした。実はバス停の正確な位置がわからなくて，早めに行って確認したかったから丁度いいといえば，丁度いいかな。お父さんが出勤前なので，しょうを預けて，なことふたりで出掛ける。（ふたりで正座してテレビ見てた姿は，同じもので大・極小って感じ。）
なこと手を繋いで，ふたりだけで歩くこと自体が新鮮な体験（いつもしょうがいるからね）。しかも幼稚園バス，初めて乗るんだよ。どきどきしてくるよね。バス見た瞬間泣くかも知れないって心配もあるし。とりあえず「行きたい気持ち」を盛り上げておこうかな。「昨日と同じ歌，歌うかな？」と尋ねる。
「それはわかんないよ。でも，おやつが出るかも知れない」
「ねぇ，お母さん。ようちえんのバスの中ってＣＤあるかなぁ？」
うーん，そうきたか。それはお母さんにもわからないなぁ。
同じバス乗り場では年長さんがふたり一緒に乗り込む。お姉ちゃんたちによろしくお願いしたところへバスが到着。先生が降りてくる。そのまま，なこが乗り込もうとしたとこで「ごあいさつしよう」と止められる。３人で並んで「せんせい，おはよーございます」をして，バスに乗り込む。（なんだ，乗りたかったのか）と，ちょっと安心する。先生に「好きなとこ座っていいよ」って言われたなこは，よりによって「先生の席」にちょこんと腰掛けたの。笑えるけど，今にも泣きそうな不安そうな顔でこっちを向いてる。そのまま扉は閉まり，結局なこは先生に抱かれて出発したのでした。
私が帰宅すると，入れ替わりでお父さんがご出勤。いってらっしゃーい。
９時までは家事がはかどったけど（約４０分），ＮＨＫの子供番組が終了すると，今度はしょうが「なこはぁ？ なこ，どこいったのぉ？」って，不安げになこを探し始める。一緒に遊ぶ。（こうやって，しょうとふたりで遊ぶの初めてだなぁ）って思いながら，しょうが乳児だった頃，しょうが寝てる間に，なこと静かに遊んだことを思い出しながら静かに遊ぶ。でも，すぐに思い出しては「なこは？」って。もう四分の一くらい泣きモード。
「なこはねぇ，幼稚園行ったの」
「じゃぁ，しょーちゃんも行く。うえうきよーちえん行くもん」
「だめだよ。今日はバスだったから，お母さんの車では行けないよ」
「しょーちゃんも ばしゅ のりたかったなぁ・・・」
もう最後は消えそうな声。公園に行ったら気分が変わるかも。
家事を中途で諦めて，外へ出る。公園に着いてからも「四分の一・泣きべそモード」のまま。お友達には見向きもせず，母子密着で地面を見ながら，花びらを松葉で刺して「だんご」を作ったり，蟻を追いかけたり・・・。「しょうちゃんに，こんな一面があったなんて」「どうした？ かわかみファミリー？」って言われるほど，いじいじしてる。とにかく誰とも目を合わせられないみたい。かわいそー。でも私も手首が痛いよ。こんなに長い間抱くのは久々で，腱鞘炎が完全復活しちゃうかも。
「おかーさん，なこちゃん おむかえにいこーよー」って何度もせがむ彼を，お友達ママたちとなだめすかして時間を稼ぎ，さて，あと３０分ってとこで，しょうちゃんがおもらし。ダッシュでお砂場のおもちゃを片付けて，帰宅。家で着替えさせて，手を繋いで歩いてお迎えに行く。これがまた珍しく，とことこ歩くのよ。おかげで２０分も早く着いちゃった。蟻を見ながら時間を潰し，ようやく園バス到着。ご挨拶をして解散。
「おせんべ，食べたよ」
開口一番，これでした。なこの説明によると，机の上に白い紙（懐紙？ティッシュ？わら半紙？キッチンペーパー？）を敷いて，その上におせんべいを配ってくれたそうで，「いただきます」をして，みんなでおやつを食べたって。
次に「泣かなかったよ」
途中で泣きそうになることはあったけど，泣かなかったって自信満々で話してくれた。そっか。お母さんも一安心だよ。これでもう大丈夫だ！って印象。
他にも・・・朝のバスは途中で子供用の席に移ったこと，帰りのバスの中で隣のお兄ちゃんが英語の歌を歌ってくれたり，大きくなったら野球をすることなんかを話してくれたこと，先生のピアノで何曲も歌を歌ったり，寝る歌・起きる歌（詳細は不明。ゲーム？）をしたりしたこと，園庭で遊んだこと，そのときに赤い帽子を貸してもらったこと，ちゃんと昨日と同じシール（ひまわり）が貼ってあったから自分のがわかったこと，などなど。こっちが楽しくなるくらいのマシンガントークだった。 それをしょうが黙って聞けずに口を挟むんだけど，無視されちゃってねぇ。ちょっとかわいそうだったよ。なこちゃん帰ってきて嬉しかったのにねぇ。
「お母さん，明日も幼稚園行く日なのかなぁ？」
そうだよね。入園説明会以来，ぼちぼちと幼稚園に行ってたから，まさかこれから毎日だとは理解できないよねぇ。これからは毎日行けるんだよ。しょうちゃんはまだ２才だからね，行けないの。
「でもさー，しょーちゃん。公園に行ったらさー，お友達と遊べるじゃん。なこが幼稚園行ってるときは公園に行くと楽しいかもよぉ。」だってさ。急に偉そうなこと言うなぁ。
そんなこんなで，かわかみさんちのお姉ちゃんはめでたく幼稚園児になりました。しょうちゃん相手に「先輩風」を吹かせてます。
自分ちの子が幼稚園に入って初めて理解できる幼稚園。一応，自分もン十年前に通っていたんですが。
年少さんがきちんと自分のカバンを持って帰ってきて，中に入ってたものはちゃんと先生が回収してるなんて，もう幼稚園の先生ってすごすぎる。私はふたりで持て余してるのに，ひとりで１０人担当してるなんて。頭の下がる思いです。
ま，もちろんなこも頑張ってきてるけど。あ，持たせた座布団は自分でセットしたようです。ほんとかなぁ。まぁ，先生も「なこちゃん，がんばってますよ。よく遊んでますし」 って一応誉めていただいたしね。
これからが幼稚園生活の本番です。一体，なこちゃんはどうなることやら。いじいじモードのしょうちゃんも，７ヶ月後には入園面接です。来年が楽しみです。うふふふふ。