本人は大真面目

　子どもの頃というのは，端から見ればファンキーな発想をしているように見えるが，本人は大真面目だったりする。今回は「むるっちさん大人になる・番外編」として，むるっちさんのファンキーな知人を紹介しておきたい。

　大人が子どもによくする質問のひとつに「大きくなったら，何になりたいの？」というものがある。私も子どもの頃には「花屋さんになる」と答えたものだった。彼のファンキーさはこの質問に集約されるといえよう。彼は一見，表情に乏しく，何を考えているのかさっぱりわからない。しかし，その内に秘めたるモノは相当なものであることは間違いないと思われる。

其の一

　それはうららかな日曜日。一家団欒のひとときであっただろう。当時，幼稚園児だった彼に，彼の両親が彼に尋ねた。「Ｋちゃん，大きくなったら何になるの？」

　「きりん」

　何故，彼が「きりん」になりたかったかは未だ定かではない。しかし，彼の目は遥かなるサバンナを夢見ていたに違いない。

其の二

　それは，お盆。大学在学中だった姉と，既に大学を卒業していた兄が帰省し，ひさしぶりに家がにぎやかさを取り戻したときだった。夕食後，兄弟揃って何気なくテレビを見ているときだった。高校生だった彼に，大学を卒業した兄が尋ねた。「おい，Ｋ。おまえ，将来何になるん？」

　「アメリカ人」

　兄は重ねて尋ねた。「どーやって，なるん？」

　「マクドナルドでハンバーガー食べて，アメリカ人になる」

　何故，マクドナルドなのか？　何故，ハンバーガーなのか？　そう断言し得るということは，もしかしてその方法で本当にアメリカ人になれるということなのか？

　ちなみに私はこの話を初めて聞いたとき「あぁ，グリーンカードの抽選か。流行ってるみたいだし。なんだ，Ｋも流行を追う今時の若者だったんだ」という印象を持ったのだった。が，彼はそんな流行なんか遥かに超越していた。おそるべしＫ。

其の三

　それは春休み。広島で研修中だった兄が実家に電話を入れたときのこと。当時，情報専門学校に在学中の彼に兄が思い出したように尋ねた。「おい，Ｋ。おまえ，本当にアメリカ人になる気か」

　「いや。おれ，アメリカ人にはならんでええ。画家になる。」

　彼は成長したのか？　アメリカ人になるよりは，画家になる方が確率は高いことに気が付いたのか？　いや，そんなことはないだろう。やはりＫはＫなのだ。

　Ｋは毎日カンバスに向かう訳ではない。スケッチブックを後生大事に抱えている訳でもない。だいたい彼が絵を描いているのに出くわしたことはない。
　確かに彼の描く絵は一種独特な雰囲気を持っている。たった２回ではあるが，私は彼の絵を見たことがある。それは去年の年賀状と今年の年賀状・・・。ちなみに絵柄は，劇画チックな「オバケのQ太郎」と劇画チックな「ミッキーマウス」であった。しかもミッキーマウスは中指を立てていた。

　成長の段階に従って順々に「自分がなれそうなモノ」にイメージを移してはいても，やはりどこかファンキーなのである。彼は現在20才で，Ｋ本人の話によれば「普通に会社員しとる」ということである。彼にはいつまでもこのファンキーさを持ち続けて行って欲しいものである。