逆子ちゃん体操
－妊娠８ヶ月 その１－
さて。いつもの尿検査→血圧測定→体重測定という既にお決まりとなったコースを辿っての定期検診。「えっと28週と６日，８ヶ月ですねぇー」と先生がおっしゃる。
実は，またしても検診前夜，緊張のあまり，全然寝つけず，だんなさんの安眠妨害に出るという愚を犯したむるっち...。蛋白尿や妊娠中毒症ももちろん心配だけど，一番恐いのは「カロリー制限」のハンコを母子手帳にどおーんと押されちゃうんじゃないかってこと。だんなさんは「冬はセーター込みで測ってるから，その分余裕じゃん」とか言う（体調は悪くないから病気関係はないって薄々分かってたからなんだけど）。しかも，その日の夕食は，だんなさんの残業のせいで遅れに遅れて，夜中の11時に「赤味噌」たーっぷりの鍋物。塩分の摂りすぎによる血圧上昇も心配。明日の朝は何も食べずに昼食前に産婦人科に入れば一番体重が少ないはず...とむるっちは画策してみた。
これが祟ったみたいで，通院途中のバス停で血糖値が下がって目の前が暗くなってきた。「うっ，ヤバイ」あわててアクエリアスを１本購入。なんとかその場をしのいで産婦人科に到着したのだった。
意外にも，というか画策通りというか，冬の重装備を脱ぎ捨てて，春の装いのむるっちは「前回の検査時＋１Kg」で，先生のチェックも入らなかった。「うん，うん」と，ほくそ笑んでると...
「最近お腹痛いこととかありません？ トイレ近いとか...」（看護婦さん）
「いえ，それはないですけど。膀胱を踏まれている感じがするんです」なんて答えるむるっち。
実は尿が濁っていて「膀胱炎」の疑いがあるんだそう。そんならそうと言ってくれれば・・・で，まあ，ちょっと問診があってエコー。お腹を丸出しにした途端，胎動のせいでぶるるんっとお腹が波打つ。なんだか恥ずかしい。ま，お腹がぎゅるぎゅる鳴るよりはましだけど。
エコーのモニターを見ながら「あー。逆子ですねぇ。膀胱を足で蹴ってたんだねぇ...」とつぶやいた先生，いきなり看護婦さんに「逆子。右が背中」と叫ぶ。「じゃ左にまわるんですねー」と看護婦さんから応答。何のことやら...と思っていると，横から別の看護婦さんが「逆子ちゃん体操って習いました？」と尋ねてくれる。妊婦体操とは違うみたい。「じゃ，あとで一緒に練習しましょう」
こんなやりとりの間に先生は黙々とエコーを見て画像を４コマ程プリントアウト。くれたけどやっぱり何が写っているかわからない。たぶん大腿骨と頭蓋の断面，あと２コマはわからない。
「尿の方は，詳しく検査しておきますから。異常はないですよ。はい。じゃ，第２診察室へ行ってくださいね」と先生に言われて，診察室を出る。
連れて行かれたのは第二診察室，ちょっと広めの仮眠室のような部屋。低めのベッドが２つ程置いてある。人の良さそうな看護婦さん（助産婦さんかも知れない。女の人の中では１人だけパンツルックだった。でも頭にはナース帽をつけていた）が，「じゃ，まず見本みせますね」といって，ベッドの上でいきなり尺取虫のポーズ。胸から上と膝から下をベッドにつけて，お尻をなるたけ高く維持（３分間）。それで左側へごろんと転んで仰向けになる。と，これが「逆子ちゃん体操」。寝る前に１，２回というのがノルマ。
彼女の説明によると，むるっちの右側にぽこさんの背中があるので，むるっちコロンとするとお腹の中でぽこさんもコロンと転ぶらしい。いまは28週で，羊水も沢山あるし，ぽこさんも未だ小さいので，割と簡単に直るということだった。34週までならほとんど直る（つまり胎児の頭が下にある状態）みたい。この時期，20～25%は逆子だから，「異常ということではない」んだって。で，「逆子ちゃん体操」によって位置が直ったのに，体操を続けたらまた逆子になるかというと，これが違うんだな。理由は，胎児は頭が重いから，一度下になったら重力には逆らえないんだってさ。
診療室を出て待合室に戻ろうとするむるっちに，看護婦さん(?)の最後の一言。「ま，別に逆子のままでも産めますから」
逆子ということにびびった訳じゃないけど，なんとなく安心した。
待合室に戻ると，いつもと違って人が多い。だんなさんに付き添われた妊婦さんも居た。むるっち以外にだんなさんと一緒に産婦人科に来る人を見たのは今日が初めて。おまけにその人は，だんなさんと一緒に診療室に入っていった。あーいう人は「立ち会い分娩」希望なんだろうと思う。ちなみにむるっちは，いつも待合室にだんなさんを待たせている。『たまごクラブ』を読んで時間をつぶしていたみたい。
次回の診療は２週間後（８ヶ月からは２週に１度，10ヶ月では１週に１度と検診が増えていく）。次回までの宿題は「逆子ちゃん体操」でぽこさんを正常な位置にすること。ま，34週までなんて，あと１ヶ月以上ある訳だし，あんまり気張らなくてもいいかな，と思う。
産婦人科からの帰り道，だんなさんがいきなり「乳輪10cmと乳首５cmだったら，どっちがいい？」なんて聞いてくる。待合室で読んでいた『たまごクラブ』のネタだった。
そりゃ，乳輪10cmの方がいいよねぇ。おっぱいが茶黒いだけでしょ？
だって，直立した５cm乳首なんて，ブラジャーだって浮いちゃうし，Ｔシャツからノーブラで透けた時のことを考えると目眩がする。それって，すごい無様。それに，垂れてるって言ったって「象の鼻」状態でしょ？ そんなの，例え「ナイスボディー」の持ち主だって彼を悩殺できるとは思えない。昔，マドンナが黒と金のボディースーツみたいなの着てたじゃない。あれって乳首の辺りに，長めの金色の房みたいなのがついてたよね。ああいう感じで，動くたびに「ぶらぶら」しそうで恐い。
第一，赤ちゃんの喉にささって「うぇ」ってなりそう。
検診のその夜。むるっちは初めての「逆子ちゃん体操」に挑戦してみた。これがキツイの何のって，もう，苦しい苦しい。だんなさんに３分後を教えてもらうんだけど...
むるっち 「まだぁ？」
だんなさん 「まだ，あとちょっと」
（沈黙）
むるっち 「まだぁ？」
だんなさん 「あと１分」
（沈黙）
むるっち 「まだぁ？」
だんなさん 「あと，もうちょっと」
胸からあごにかけてのラインを布団にくっつけてるから，息は苦しいし，首も痛い。もともと身体に柔軟性がないから，ほんとに辛い。で，だんなさんの「はい，いいよぉ」の声で，えぇいっとばかり勢いをつけて左に転がる。
ところが勢いがあったと思ったのはむるっちだけで，転がる様を見ていただんなさんには「もっと早く転がった方がいいんじゃない？」なんて言われる始末。ちょっと悔しいので，もう一度トライ。苦しい３分間を耐え抜いて「ごろんっ！」と転がる。そこへだんなさんが「さっきよりは速いけど...」と追い討ちを掛ける。うーーー悔しい。じゃぁ，あんたがやってよぉ，と心の中で悪態をつきたくなる。
これから毎日だよ。ふぅ。気のせいか，「逆子ちゃん体操」の後は，ぽこさんの動きが激しい。自分が揺れちゃいそう...
そうそう。体操と言えば「妊婦体操」。ほとんどやってない。足首の運動，背中を丸める運動，背中を反らせる運動，足の裏を合わせた状態で膝を床につける運動，だいたいこれだけ。でも中学～高校まで一貫して「体育２（５段階評価）」だったむるっちが素直にこなすはずがない。
そうして編み出されたのが「自称・複合妊婦体操」なるもの。仰向けに寝て，足の裏を合わせ大股を広げ，背中を反らせる。これで一気に２ポーズだぁ！ 我ながら頭いいじゃんって思った。ただ難点が２つ。それは「効果が不明なこと」と「だんなさんに笑われること」。だんなさんが笑うのは，むるっちの目が有らぬ方向を見ているせいみたい。意識を背中に集中させて反るから，目はどっか向いちゃうのよね。不可抗力だわっ。
幾人かの元妊婦さん（ここ数年以内の経験者）によると，妊婦体操はともかく，呼吸法だけは練習した方がいいとのこと。理由は「土壇場で悲惨だから」なんだって。
出産が進む間にはいくつかの段階があるのだけど，その段階に合わせてそれぞれの呼吸法があって，それぞれをマスターしておくと「いきみ」なんかが巧く出来て過呼吸も防げて，赤ちゃんも楽なら，自分も楽。そういうことなんだって。
でもね，ひとりで「ひ・ひ・ふー」とか「ひ・ひ・ふー・うん」とかって練習するのって，結構恥ずかしいよ。深夜にラジオ番組をイヤホンで聞いて大笑いした後の白けた感じに似てる。その点，立ち会い分娩のケースは夫婦そろって練習だから，そういうしらけた感じはないんだろうなぁ。