お風呂ごっこ
－妊娠５ヶ月　その３－

　第19週に入って数時間。真夜中だというのに，だんなさんはパソコン，むるっちは読書をしていた，ちょうどその時。下腹部で変な波が起きた。子宮を金魚鉢と間違えて，魚が「ばしゃばしゃ」と身体をくねらせたみたいな波だった。

　（もしかして，これが噂の胎動...？）

　むるっちの両手とだんなさんの右手がお腹の上にセットされる。じーっと動きをまつ。はっきり胎動と断言できないけど，何か今までと違ったごく小さな衝撃が外へ向かって発されてるのを感じた。それがまた，待ってるこっちがしらけるぐらい間をあけて動くのだ。けれど，動く。なんか嬉しかった。純粋に「嬉しい」って気持ちだけ。生命の神秘って奴なのかもしれないけど，むるっちはただただぽこさんに感謝でした。「動いてくれて，ありがとね」って。親知らずの治療のためとはいえ，本当なら飲まずに済んだはずの薬を飲んでたからね。ま，その翌日からの胎動は生命の神秘を感じさせるでもなく，ただ普通のことになっちゃったけどね。

　抜糸の日。近所の歯科医を訪ねて抜いてもらう。ところが一針だけ取れない。それで翌日，改めて大学病院へ。抜糸をしてもらうと担当医が一言「まだ痛いでしょ？　骨が見えてるとこがありますねぇ。ゼリーで塞いでおきますから，今週末にもう一度来てくださいね」と。
　本来ならその部位に血が溜まって埋まるはずなのに，どうやらうがいと一緒に流れてしまったらしくて。そのまますぐ埋まるものだけど，ほっとくと雑菌が入って骨髄とかに影響が出るので念のためにもう一度，ということらしい。大いにびびった。ま，週末診察してもらったときには無事に埋まっていたけれど，本当にびびった。

　さぁて。いよいよ両親学級の最終回。いよいよ「沐浴実習」。今回は年休を取っただんなさんと一緒にお出掛け。「体力なし子さん」こと，むるっちは３kgの赤ちゃんをお風呂に入れる筋力に恵まれていないことが十分わかっているので，だんなさんの出番と相成った訳さっ。

　ところが意外や意外。今までひとりしか参加していなかったお父さん予備軍（彼は両親学級の実施曜日が休みだそうで）が，うちのだんなさんを含めて，な，なんと４人。実習室が一度に狭くなったように感じる。

　「退院してからの諸注意＆新生児の世話に関するビデオ」を見て，それからいよいよ実習。赤ちゃんは貸してもらえない（当然だ！）ので，お人形を使って「抱き方」「おむつの当て方」「服の着脱のさせ方」「沐浴のさせ方」を体験する。この人形というのが超リアル。身長50cmで体重は３kg，首は据わってないし，頭は重い。手足も曲がった状態（両手がＷ字で，両脚がＭ字の状態というのが新生児の特徴）。皮膚はシリコン製で，性別（性別によっておむつの当て方が違うからね）もある。ちなみにお値段は一体10万円程らしい。

　保健婦さんによるデモンストレーションを見た後で，さぁトライ。
　まず赤ちゃんの服を脱がす。赤ちゃんの手を自分の手で握って服を脱がしていく。決して「手をひっぱって」はだめ。脱臼のもとだもんね。左手で首を支えて，右手で腿の付け根を持つ。沐浴布（でかいガーゼ）を掛けて，声をかけながら（本当に人形に向かって話し掛けないと，保健婦さんからチェックが入る），ゆっくりとベビーバスに入れる。この時の温度は38～40℃。右手で赤ちゃんの顔を専用のガーゼで洗った後，頭から順番にベビー石鹸で洗っては流し洗っては流し，を繰り返す。首や手など，皺のあるところは念入りに洗う。前半分が済んだら，「技」が必要。右手で赤ちゃんの右腕の付け根をつかみ，赤ちゃんのあごを手首に載せて，ほいっとひっくり返す。それで背中をざーっと洗う。そしたら元の姿勢に返して掛け湯をする。
　あらかじめセットしておいたバスタオルで赤ちゃんを拭いて，おむつをあてて服を着せる。湯冷ましを飲ませて，はい出来上がり！

　見てると楽チンなのに，やるとこれが結構つらい。３kgを自分の腕の力と浮力だけで洗うんだから。胸によせて抱くのとはおお違い。途中で腰が痛くなるし，重みに負けて赤ちゃんが沈んでいくし，ふんとにもう！
　ところが，だんなさんは上手だった。もうパーフェクト。保健婦さんにも誉められるくらい。ちゃんと赤ちゃんに声を掛けて（もちろん人形なんだけどさ），ほいほいって感じでお風呂に入れてる。一緒に暮らして２年経つけど，こんな特技があるとは知らなかった（あたりまえだけど）。だんなさんは実習が終わってから「お風呂は私がやりましょう。むるっちさんには無理ですねー」とのたまった。でもだんなさんは服を着せるのがからきしだめなので，これはむるっちがすることになるのね，きっと。

　４人でひとつの赤ちゃんだったから，実習の間はずっと保健婦さんが各テーブルを見てまわる。そこでのやり取りをいくつか。

　むるっち夫婦も露骨に新米（当たり前だって！）でしたが，両親学級に来ている人たちも同じ状態でしたね。いやぁ，ひと安心，ひと安心。むちゃな奴って結構いるじゃん。

　胎動の回数も増えて，前よりは自然にぽこさんと（とは言っても，一方的だけど）話をするようになった。体重もあっと言う間に増えた。妊娠前から比べると４kg増。いきなり増えたのでちょっと心配。増えた分がぽこさんのならいいけど，むるっちのぜい肉ではちょっと...ね。（母乳で育てると，ぜい肉が消えて早く元の体形に戻るとか）
　そんなこんなで激動の妊娠５ヶ月ライフを終え，６ヶ月へ向かうむるっちだった。