動け！動くな！
－妊娠６ヶ月 その１－
ある日，気が付いて見れば第20週に突入していた，とまぁそんな感じ。もう妊婦生活にも慣れてきたかなぁなんて思う頃。しかぁし，それが甘い。ぽこさんはどうやら成長しているらしい(そうでないと困るんだけどね)。例の胎動のバリエーションが増え続けているのだ。
初めの頃は「ぴくぴく」とか「ばしゃばしゃ」って金魚が金魚鉢で跳ねてる感じ(むるっちは金魚鉢!?)だったのだけど，最近は違う。ぽこさんの意志を感じるのね。なんていうのかなぁ。「むぅ」って感じで中から押されたり，「つるるん」って内側を撫でられたり。あ，こいつってば遊んでるな？ってツッコミを入れたくなる。座っているときは割と平気だけど，家事をしてるときに「活動」されちゃうと「おいおい，頼むよぉ」と情けない声でお願いしたくなる(実際はしないけど)。
だんなさんと話をしている最中に「ここにいるんだけど」とでもいいたげに派手に動くことがある。あんまり派手に動かれると「うっ」と声が出てしまう。まるで合いの手の入る根拠が分からないマンボのよう。
たまにね，トイレに行った直後に「あっ，またトイレに行きたい」って思うことがある。最近，多いの。ほら，残尿感って病気っていうか，老化っていうか，よくテレビでなんちゃら言ってるじゃない？ ただでさえ気になるのに，妊娠中じゃ，更に気になっちゃう。だからってトイレに行ってもほとんど出ないの。おかしいでしょ？ それに椅子に座ってて「うっトイレ！」って思って立ち上がると，すーっと「トイレ行きたい感」が消えちゃうことがあるんだ。
(もしかして，あんた膀胱踏んでない？)ってぽこさんに聞きたいよね。胎動って，子宮の中の羊水で泳いでるぽこさんの全方向性運動な訳だ，と。つまり胎動してても，お腹の表面(へそ側ってことね)にその衝撃が全て抜けるわけじゃないのね，きっと。
動いてくれなきゃつまんないし，膀胱は踏まれたくないし...。むるっちとしては｢動け！動くな！｣って気分。
うぅ...今？ 今も動いてる。でも今のは「ごぼっ」て感じかな。
「ぼこっ」でも「ごぼっ」でもなかったんだけど，先日，胎動を派手に感じたときに頭の中で「さんどぉ～ばぁっくに～♪」と『あしたのジョー』のオープニングテーマが浮かんでしまった。
あれって，そのまま歌っていくと「叩け！叩け！た・た・け～♪」って... 。でもあんまり叩かれてはねぇ...。むるっちは心の中で「叩け(違う)！叩け(違う)！た・た・け～(ちっがーうーーーーーーっ)！」って思わず歌ってしまうのだった。ところがなんせ『あしたのジョー』だもんだから，そのままメロディーを追っていくと「おいらにゃ～獣の～血が騒ぐぅ～♪」。(ぽこさんに「獣の血」が？ じゃ，誰の血なんだぁ？ 私は人間だぞ。じゃ，だんなさんが獣？ 申年だとは思っていたけど，じゃ，猿？モンキー？？)なんて考え込んでしまう。非常に恐い。
結局一週間くらい，胎動の度に「さんどぉ～ばぁっくに～♪」と心の中で歌うはめになったのだった。一週間で済んでよかったよぉ，ほんとにもう。
だんなさんのお母さんの体験談を聞いた。かつてだんなさんの妹がお母さんのお腹にいた頃のこと。お風呂に入っていたお母さんが何気なくお腹を見ていると・・・ぼこっ！ いきなりパンチか蹴りでもくらったような，そうとうな衝撃をお腹の中に感じたらしい。「やっぱりお腹の中にいるときから，そういう人だったんだわ」と(ちなみに子供３人のうち，派手にやったのは妹だけだそう。妹はいわゆる「おとなしくない」タイプとして知られている)。
胎動が派手だと「男の子」もしくは「男っぽい女の子」。胎動がやさしいと「女の子」もしくは「おとなしい男の子」。でぇぇい，一体どっちなんだ！
ぽこさんの性別は，運が好ければエコーで判明するのだけど，噂では「あんまり当てにならない」というし。(所詮はエコーだから，胎児の向きによっては分からなかったり，間違えたりするらしい。)
さて，いよいよ定期検診！ 本当にもう「いよいよ」だよ。いいかげんに胎動にも慣れてきて，他に目新しいこともないんだもん。定期検診でもなくっちゃ，自分のお腹に何が入っているのか不安になっちゃうよ。
前回と同様に，尿検査→血圧測定→体重・腹囲測定→エコーである。ところが今回，むるっちはどうしてもだんなさんに，ぽこさんがいかに活発にうにうに動いているかを見せたかった。だから(いつもは待合室で荷物番をしている)だんなさんにエコーを見せてくださいって看護婦さんに頼んでみた。意外にもあっさりＯＫ。
お医者さんがエコーのモニターを指差しながら，だんなさんに懇切丁寧にぽこさんの様子を教えてくれる。
「これが頭ですね。この直径が発育のひとつの目安になります。だいたい 4.6cmくらいですねぇ。」なんて言いながら，むるっちのお腹をむにむに触っていく。で，そのあと，手・足・胴・横顔・胎盤なんかを見せてくれたみたい。どうやらぽこさんは手をぶんぶん振り回してたみたいだった。「～みたい」っていうのは，むるっちには見えなかったから。お医者さんが本当に真剣にだんなさんに説明するんで，むるっちからはモニターが見えなかったのだ。ま，しょうがない。だんなさんがたくさん見たんだから，そいでいいや。
今回もらった「エコーの画像」は全然面白くなかった。だって，左半分に胎盤，右半分にぽこさんの頭の断面(直径を測ったときのもの)しか写ってない。これなら，妊娠第５週に撮った「卵状」のものの方が，それらしかった。心霊写真を通り越して「何？これ？」って感じ。がっかりだなぁ。
で，異常はなし。次回はまた一月後。
実はこの日が第20週と６日。法律では「第21週からは中絶してはいけない」ことになってるらしいの。しかも出産予定日は第40週１日で計算してあるんだよね。つまり，この日がむるっちにとっての折り返し地点。
相変わらず母親になるなんて自覚はさっぱりない。でも大きくなっていくお腹を見てると，怪獣の卵を温めてるみたいな気持ちになる。何が出てくるかな？どんなんが出てくるかな？(いや，もちろんむるっち＆だんなさんの子供なんだから人間のはずなんだけど)なんて。福袋の中身を見る直前の気持ちにも近いかも知れない。
世の中には「帯祝い」っていうのがあるんだよね。本当は妊娠５ヶ月の戌の日にお腹に岩田帯を巻いて「安産しますように」ってするときに，同時に実家から婚家に引き出物を渡すらしいのね。そういうのをまとめて「帯祝い」って言うのだろうと思うんだけど(すっごく自信ない)。
で，むるっち宅はどっちの両親からも離れているので引き出物を婚家に届ける日がずれ込んで，定期検診の翌日に予定されていたのだ。むるっちの両親がだんなさんの両親を訪ねるだけで，むるっちたちには何の関係もないよーって，その当日をふたりで寝て過ごした。でも，その引き出物は何故かむるっち宅にも届いたのだった。直径30cm弱の紅白のお餅状の袋に詰められた米。ラッキー。もうじき，お米なくなっちゃうんだよね。
あぁ，なんて親不幸な奴ら... 。