涙が沈む

入園した最初の週。幼稚園には各自の「お手拭タオル」が備え付けてあるのにも関わらず，なこのハンカチ（ポケット・かばんに一枚ずつ）は２枚とも濡れて返ってきた。むるっちは手を拭いたのだと思い，「上手に拭けたのね。濡れたからハンカチ替えたの？」となこに幼稚園での様子を尋ねた。

「なこねぇ，バスの中では泣けないけど，幼稚園の部屋に入ると，お母さんがいないから淋しくなって，ちょっとだけ泣きてきちゃうの。泣けるとね，お鼻も出ちゃうの。だけどね，なこちゃんはもう幼稚園に行くから，一人で，鼻も涙も，ハンカチで拭くとね，涙が沈んじゃうの。だから大丈夫だったよ」

なこはそう言った。「ちょっとだけ」なのに，ハンカチが２枚とも濡れて返ってくるのだ。しかも手を洗ったときは「なこのはキティちゃんのピンクのだから，ちゃんとわかった」というタオルで手を拭いているらしい。

なこの話は切れ切れで，様子が全く分からないむるっちにはなかなか理解が及ばないが，「ハンカチは涙と鼻水だけで濡れている」と理解するのに二日もかかった。ま，理解したからと言って，何ができるわけでもなかったけど。ただ，「ちょっとだけ」に込められたなこのプライドに，むるっちはちょっと泣けてきた。大人だから我慢したけどね。

それから毎日「ちょっとだけ泣きちゃったけど，ハンカチで拭いたら涙が沈んだ」という台詞を聞き，密かにハンカチの濡れ具合をチェックした。

ＧＷ目前の今は，もう大丈夫らしい。お弁当，おやつ，そして念願の給食が始まったからだ。食い気で「涙」を乗り切るのなら，ま，食いしん坊でよしとしましょう。