母の日

母の日目前の金曜日。園バスを降りてきたなこが，さようならのご挨拶ももどかしく，絵本袋から丸めた画用紙を取り出した。

「これ，お母さんにあげるの？」

なんのことやらって思って広げてみたら，「お母さんの似顔絵」とカーネーションの絵のついた厚紙のペンダント。家に帰る道すがら，幼稚園での話がいろいろ出る。

「えーっとね，昨日ね，幼稚園でお絵かきで顔だけ描いてねぇ，その次の日（それは今日か？　それとも一昨日と昨日なのか？）に服描いたの。お母さん，ピンク好き？　ピンクの服にしたのよ。（そう言われては「嫌い」とはいえませんねぇ）それからねぇ，この首飾りはねぇ，花だけなこがぺったんって貼ったら，あとは先生が書いてくれたの」

ふんふんって感じで聞く。すると最後に彼女はこう言った。

「お母さんがねー，洗濯物干すときにねー，それから，ごはんを作るときにねー，ありがとうって言うよ」

誰が？　んっ？　あぁ・・・分かった。先生がそう言ったんだね。洗濯物干してくれたり，ごはんを作ってくれるお母さんにありがとうって言おうねって感じだろうな，きっと。

ともかく。似顔絵はむるっちに似てないけど，今までなこが描いた絵の中で，最も人間らしい顔っていう絵だったので，すごく驚いた。なこは色には無頓着で，髪も描いてあればいいって感じだったからね。彼女にとって大切なのは，「それ」が適当な場所に書き込んであるかどうかだけだったの。それなのに，初めて幼稚園からもって帰ってきた絵は，色使いも常識的で，髪も鼻も耳も，常識的な場所に書き込んであった。幼稚園ってすごいって思った。

そんな訳で，似顔絵をしげしげと見つめてしまったむるっちは，なこに「お母さん，それ，飾っておいてもいいからね」なんて言われてしまった。んー，そうするわ。