はじめてのおつかい

今日，初めて，子供たちを二人だけで，おつかいに行かせた。目的地は５０Ｍ先のクリーニング屋さん。預けてあったお父さんのスーツをもらって，現像済みの写真にお金を払うのが本日のお子ちゃまたちの使命である。

「なこだけじゃ行けないよ。淋しいもん。しょうが一緒なら面倒見てあげてもいいけど」 なんて強がるなこ。お姉さんパワーは弟がいないと発揮できないからね。

ところが「しょーたん，行かない」とごねる弟。お母さんかお父さんと一緒でないと心配だって言うことらしい。お姉ちゃんは信用できないのか。あんた，あれだけ面倒みてもらってるのに，そういうこと言うかな？　もう。そこで，目的地がクリーニング屋さんで，飴がもらえるということを伝える。すると現金な奴は言った。

「あ，なこ，手つなごー」

目的地は，住んでいるマンションの裏手にあるので，玄関から見送って，姿が見えなくなったところで玄関を閉め，表に面した窓から斜めに二人を見送る。むるっちの顔が窓から見えたとあっちゃ，後で何を言われるかわかんないからね。でも奴らは一度も振り返りません。なこがしょうを引っ張って歩いていく。がんばれー。

姿が見えなくなったので，慌てて狭い家の中をつっぱしり，裏庭に潜んでフェンス越しに見ようかと網戸を開けたら・・・そこには既にお父さんが潜伏中。お父さんは身をかがめ，時には伸び上がりながら，二人を待ってる。

なこの大きな声が聞こえてくる。「だからね，しょうちゃん，ここは車が通ると危ないのよ。すみっこ歩くと，どぶに落ちちゃうよ。怪我したら血が出るから，気をつけなくちゃ・・・」なんて感じで，くどくどと注意事項をしょうに伝えている。しょうは黙って付き従う。そりゃ無理だよねぇ，２歳半になってないんだもん。

子供がフェンスを向こうを歩く間，お父さんは「かがむ」というよりは「へこむ」って感じで小さく小さくなって，それでも顔は子供を向いているので，新手の怪獣のようでしたねぇ。

クリーニング屋についた気配がする。でも店の裏口しか分からないので，入れたのかどうかがわからない。自動ドアじゃないので，子供ではノブに手が届かないだろうなぁなんて心配しても仕方がない。お父さんも潜伏していることだし・・・「じゃ，あたし，中で待ってるね」と言い残し，さっさと台所へ戻った。

待てども，待てども帰ってこない。遅いなぁ・・・無理だったかなぁ？なんて思いながら，でも「はじめてのおつかい」は迎えに行くのはタブーだろうなぁ？なんてことも考える。

しばらくして，お父さんが疾風の如く，台所を通り抜け，表の窓へ突進。どうやら，裏庭のフェンスの横は通り過ぎたみたい。それからすぐに玄関のドアの前で「ただいま」って大きな声が聞こえた。

「おかえり」
「おかえり，ありがとね」
「しょーちゃんね，あめもらったよ」
「これ，お父さんの仕事の服。重たかったよ。もう。写真ももらった。お釣りも飴ももらったから，キティちゃんの袋に入れてきたよ。大丈夫，ちゃんとできた」

ちょっとジーンを来ました。５０Ｍとは言え，自分のうちの玄関が見えなくなっちゃうのだから，二人には大冒険だったんだろうなぁ・・・自分の気持ちの中にも「達成感」に似たようなものが湧いてくる。でも，そんなむるっちを知ってか知らずか「飴，むいて」と手を出すしょう，「これ，なこのお釣りだから」とお釣りに執着するなこ。うーん。

その日の夕方。なこが，おばあちゃんに電話をした。

「今日ね，なこねー，しょうとね，ふたりでねー，クリーニング屋さんにねぇ・・・お見舞いに行ったんだよ」

お，お見舞いですかぁ・・・